美術工芸作品や産業製品をつくるには、アイデアを紙に描くことから始まり、かたちにする準備が進められていきます。明治期にはこうした絵のことを「図案」と呼び、政府が主体となって新たな意匠を創出するよう産業界へ働きかけました。2017年度展覧会「纏う図案―近代京都と染織図案Ⅰ」では、明治期を中心に染織図案が産業界・教育機関で展開された様子を紹介しました。
一方、図案は個人のアイデアを描いたものに加え、明治20年代以降に模様や図案を掲載した出版物が刊行され始め、多数に向けて広がりました。こうした出版物には近代以前の美術工芸作品の模様、図案家が考案した新たな図案などが紹介され、製品となる前段階のアイデア自体が価値を持つようになりました。また、墨摺のものから多色摺、金や銀を使用した豪華な摺のものまで出版され、図案集というメディア自体に対する注目の高さもうかがえます。こうした図案集は、図案を学ぶための教育資料、あるいは染織産業に携わる人々のアイデアソースとして活用されていました。
明治24年(1891)に設置された京都市立美術工芸学校工芸図案科と明治35年に設立した京都高等工芸学校(機織科、色染科、図案科)では図案集が教育資料として収集され、学生達が専門課程を学ぶ際の参考資料となりました。また、明治31年(1898)に開館した京都府立図書館では、染織業者の参考になるような資料を購入するよう働きかけがおこなわれました。その結果、図案集などが積極的に購入され、自由に閲覧できる環境が整えられました。京都という地域に根ざしたビジネス支援ともいえる活動がおこなわれていたのです。
本展覧会では、京都工芸繊維大学附属図書館、京都府立京都学・歴彩館、京都市立芸術大学附属図書館が所蔵する明治期に購入・寄贈された図案集を中心にご紹介します。公共図書館や教育機関が集めた図案集の果たした役割、そして図案集と染織産業との関わりについてもご覧いただきたいと思います。