京都工芸繊維大学の前身校のひとつ京都高等工芸学校では、明治35年（1902）の開校より、図案科、色染科、機織科のための教材、参考資料として多くの美術工芸品、標本、書籍類を集めてきました。本展覧会では、このうち同校の図案科初代教授、浅井忠（1854-1907）と深いつながりのあった守住勇魚（1854-1927）より、明治37年から38年にかけて購入した資料をご覧いただきます。
　勇魚は、伝統的なやまと絵の流派である住吉派の日本画家、守住貫魚（1809-1892）の次男として徳島に生まれ、父のもとで日本画を学んだのち、浅井とともに、彰技堂、工部美術学校で洋画を学びました。同志社理科学校などで画学教員をつとめながら、貫魚の死後は再び日本画も描き、川島織物の依頼で綴織の下絵の製作などもおこないました。
　勇魚から購入した資料のなかには、有職故実に通じ名所旧跡や古物の写生、模写に力を注いだ貫魚による正倉院や法隆寺の宝物の絵が多く含まれています。また、源氏物語絵巻や百鬼夜行絵巻など古典的な絵巻の模写、土器や道具の模型なども含まれており、日本の美術史を学ぶうえで貴重な資料であるとともに、図柄やかたちに焦点をあてた図案製作のための参考資料になったとも考えられます。
　アール・ヌーヴォーに代表されるヨーロッパのデザイン潮流の影響を強調されることが多い京都高等工芸学校の教育ですが、明治37年には、図案科に日本画家の菊池素空（1879-1922）が講師として迎えられるなど、日本の伝統的な美術もまた重要な要素として取り入れられていたことを知っていただければと思います。

企画・主催：京都工芸繊維大学美術工芸資料館