[京都工芸繊維大学美術工芸資料館]
「土居次義 記憶と絵画」展 (声なき声 いたるところにかかわりの声 そして私の声 芸術祭Ⅱ)

いきなり私事で恐縮ですが、1995 年に京都工芸繊維大学に赴任する際、当時の教授であった宮島久雄先生から声を掛けていただきました。口説かれたわけではないのですが、そのときの殺し文句が「土居先生の蔵書があるから」でした。日本美術史を研究しようという者にとって、土居次義先生のお名前は、長谷川等伯や狩野山楽の名とつねにセットでしたから、これは魅力的なお誘いでした。
その言葉に乗せられて本学に赴任することになるのですが、実際には、土居先生のご蔵書は、ご遺族が三竹園文庫というかたちできちんと管理されており、本学の図書館にあるのは、いわゆる「ダブり」の本が多かったのです。これには多少がっかりしたのですが、その数年後、三竹園文庫を管理されていた村上幸三郎様より京都工芸繊維大学に土居先生のご蔵書についての打診がありました。はじめは図書館が対応しており、あまりの冊数の多さに尻込みをしていました。その話を聞き、この機会を逃してはならないと、交渉の席に加えていただき、まずは、文庫のご蔵書を詳しく調べることになりました。
村上様が作成されたリストはあったものの、実際に大学院生とともに三竹園文庫を訪れたときにはその数に圧倒されました。図書館が尻込みをするのも無理はないと思いました。しかし、当然ですが、ご蔵書のなかにはわれわれにとって欠かすことのできない基本図書や、全国各地の展覧会図録、貴重な古書などがあり、まさに宝の山といった感がありました。なかでも、土居先生の代名詞ともいえる「モレリ法」の基礎となった細部写真の数々は、研究の現場をまざまざと伝えてくれる臨場感のあるものでした。そして、その臨場感をさらに高めてくれたのが、土居ノートでした。本棚にずらりと並んだ手書きのノートを見て、文字通り仰天した記憶があります。
結局、第一にノート類、そのあとに、古書、写真、図録類というかたちで、三竹園文庫の中枢部分を京都工芸繊維大学に寄贈していただくことができました。この貴重な資料をできるかぎり有効に活用してゆくことが、それ以後の課題でした。幸いに、狩野永良の『画伝集』が紹介され(多田羅多起子、『美術フォーラム 21』23 号、醍醐書房)、さらに、2011 年の「長澤芦雪」展(MIHO ミュージアム)、2013 年の「狩野山楽・山雪」展(京都国立博物館)では土居ノートが展示されることになり、多くの方々にその存在と素晴らしさを知っていただくことができました。狩野山楽の作品と並んでご自身 のノートがガラスケースのなかで展示されたことに土居先生がいまどんな思 いでいらっしゃるかは知る由もありませんが、価値あるものが正当に評価さ れて、日の目を見たことは、研究者の一人としてこれ以上ない喜びでした。
いままた、この土居ノートにさらなる光があてられて、後進の研究者への指針となることは、大げさではなく日本の美術史研究にとって大変有意義なことだと思います。                              並木誠士(芸術祭Ⅱアドバイザー)

土居ノート・プロジェクト

土居次義の方法は何よりも実作品の徹底的な観察であり、調査ノートを見ていると、その「目の記憶」を追体験することができます。この体験を何とか共有できないかと思っていた頃、大阪大学で文化庁の芸術支援事業に申請することになり、展覧会を企画しました。ただ、この膨大なノートを一人で実作品にてらして点検することは不可能であり、次の方々の協力をえました。土居ノートの寄贈を受け現在管理されている並木誠士氏 ( 京都工芸繊維大学 )、京都国立博物館で『狩野山楽・山雪展』を実行した山下善也氏 ( 東京国立博物館 )、その展覧会にともに関わった五十嵐公一氏 ( 兵庫県立歴史博物館 )、近代絵画の専門家の川西由里氏 ( 島根県立石見美術館 )。そしてこの企画全体を下支えしてくださった多田羅多起子氏 ( 京都芸術大学 )、大橋あきつ氏(宮崎県立美術館)、波瀬山祥子氏(大阪大学)です。また、展示には、芸術祭を企画運営しつつアート・マネージメントについての人材を育成するプログラムである、本芸術祭の受講生のみなさまのご意見を反映させています。この展覧会が近世絵画をより深く見る縁となれば幸いです。   奥平俊六(芸術祭Ⅱ事業担当者)

土居次義

明治39年 (1906) 大阪に生まれる。昭和6年 (1931) 京都大学文学部哲学科美学美術史を卒業。昭和 11 年 (1936)恩賜京都博物館鑑査員、昭和21年 (1946) 同館館長。昭和24年 (1949) 京都工芸繊維大学教授となり、意匠工芸科創設に関わる。昭和 45 年 (1970) 同校名誉教授。平成3年(1991) 没。
主著:『山楽と山雪』桑名文星堂、1943。『長谷川等伯・信春同人説』文華堂書店、1963。『近世日本絵画の研究』美術出版社、1970。『水彩画家 大下藤次郎』美術出版社、1981。

◎関連企画
リサーチセミナー「土居ノートと美術史研究」
2015年1月10日(土) 13:30-16:30  @京都工芸繊維大学美術工芸資料館

◆講師
並木誠士(京都工芸繊維大学)
奥平俊六(大阪大学)
山下善也(東京国立博物館)
五十嵐公一(兵庫県立歴史博物館)
多田羅多起子(京都芸術大学非常勤講師)

声なき声 いたるところにかかわりの声 そして私の声 芸術祭Ⅱ

◎主催
大阪大学文学研究科
◎助成
平成26年度文化庁「大学を活用した文化芸術推進事業」
「劇場・音楽堂・美術館等と連携するアート・フェスティバル人材育成事業」

展覧会名 「土居次義 記憶と絵画」展 (声なき声 いたるところにかかわりの声 そして私の声 芸術祭Ⅱ)
会期 2015年1月6日
〜 2015年1月10日
開館時間 10:00 – 17:00

入館は16:30まで

休館日

期間中無休

入場料

無料

URL http://www.museum.kit.ac.jp/20150106.html
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